銀行取引きほんのきLesson1:銀行取引約定書 編

公開日:2024.04.08

銀行取引約定書とは、事業者と銀行が継続的な融資取引を行う際に取り交わす契約書です。

 

今回は、経営者が知っておきたい銀行取引約定書の内容をお伝えします。

銀行取引約定書とは?

銀行取引約定書とは、ある銀行から初めて融資を受けるときに交わす契約書です。
信用金庫と取引する場合は、信用金庫取引約定書となります。

 

融資取引は取引の度にその内容が変わるため、その都度すべてを盛り込んだ契約書を取り交わしていると企業・銀行双方の負担が大きいため、「融資取引に共通する重要で基本的な事項を定めましょう」という意味合いで取り交わす契約書です。

 

それぞれの銀行で銀行取引約定書のひな形が用意されており、企業側は銀行取引約定書の
内容変更の交渉はできません。

金銭消費貸借契約書との違い

金銭消費貸借契約書(借用証書とも言われます)はお金を貸す債権者(銀行)を借りる債務者(企業)との間で取り交わす書類で、個々の融資条件(金額、返済日、返済期間、金利など)が記載されます。

 

銀行と取引を開始する際に銀行取引約定書で基本的なルールを取り決め、実際に融資を受ける際には金銭消費貸借契約書で個々の取引条件を定めることになります。

経営者が知っておきたい銀行取引約定書の内容

ここでは、京都中央信用金庫の信用金庫取引約定書に記載される条項をもとに、経営者が知っておきたい銀行取引約定書の内容を解説します。

ここでは、お客様(企業)を甲とし、京都中央信用金庫(銀行)を乙とします。

金利の引き上げ

第3条(利息、損害金等)

 利息、割引料、保証料、手数料、清算金、違約金等(以下、「利息等」とい      う。)、これらの戻しについての割合および支払の時期、方法については、別に甲                       乙間で合意したところによるものとします。ただし、金融情勢の変化その他相        当の事由がある場合には、甲または乙は相手方に対し、これらを一般に合理的と           認められる程度のものに変更することについて、協議を求めることができるも        のとします。

 甲の財務状況の変化、担保価値の増減等により、乙の債権の保全状況に変動が        生じた場合には、利息等の割合の変更についても前項と同様とします。

 甲は、乙に対する債務を履行しなかった場合には、支払うべき元本金額に対            し、 年 14%の割合の損害金を支払うものとします。この場合の計算方法は、      年365日の日割計算とします。

融資を受けている企業の財務状況が悪化した場合や金融情勢が変化した(市場の金利が上がった)場合に、銀行はこの条項を根拠に金利の引き上げを要求してくることがあります。

企業が取るべき行動

銀行は金利引き上げの協議を求めることはできても、一方的に金利引き上げを企業に応じさせることはできないため、断ればいいです。

 

なお、「甲または乙は相手方に対し」と記載されているため、企業から銀行に対して金利引き下げを要求することも可能です。

期限の利益の喪失による一括返済の要求

第5条(期限の利益の喪失)

①甲について、次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙からの通知催告等が  くても、甲は、乙に対するいっさいの債務について当然期限の利益を失い、
 直
ちに債務を弁済するものとします。

.支払の停止、または破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、
  特別清算開始、もしくはその他裁判上の倒産処理手続開始の申立があったとき。          

2.手形交換所または電子債権記録機関の取引停止処分を受けたとき。

3.甲またはその保証人の預金、定期積金、その他の乙に対する債権について、     仮差押、保全差押、または差押の命令、通知が発送されたとき。なお、保証人               の乙に対する債権の差押等については、乙の承認する担保を差し入れる旨を、          甲が遅滞なく乙に通知したことにより、乙が従来通り期限の利益を認める場合           は、この限りではありません。ただし、期限の利益を喪失したことに基づき、           既になされた乙の行為については、その効力を妨げないものとします。

②甲について、次の各号の事由が一つでも生じた場合には、乙が書面により通知し     たときに、甲は、乙に対するいっさいの債務について期限の利益を失い、直ちに
   債務を弁済するものとします。

  1.乙に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき。

  2.担保の目的物について、差押、または競売手続の開始があったとき。

  3.乙との取引約定に違反したとき。

  4.甲が振り出した手形の不渡りがあり、かつ、甲が発生記録をした電子記録債権             が 支払不能となったとき(不渡りおよび支払不能が6か月以内に生じた場合に
    限る)。

  5.第14条に基づく乙への報告、または乙へ提出する財務状況を示す書類に、重             大な虚偽の内容があるとき。

  6.保証人が、前項、または本項の各号の一つにでも該当したとき。

  7.第17条第1項各号のいずれかに該当し、もしくは同条第2項各号のいずれかに     該当する行為をし、または、同条第1項の規定に基づく表明・確約に関して虚偽              の申告をしたことが判明した場合で、乙において甲との取引を継続することが             不適切であると判断したとき。

 8.前各号のほか、乙の債権保全を必要とする相当の事由が生じたと、客観的に認
   められるとき。

融資を約定通り返済していれば問題ありませんが、返済が遅れた場合に、銀行取引約定書に基づき銀行が行動を起こします。それが期限の利益の喪失です。

 

期限の利益とは、銀行と約定した返済条件「金額3,000万円、返済期間5年(60回返済)」の融資であれば、毎月50万円と金利を支払えば、借入金全額の返済を求められることはないことを言います。

 

期限の利益の喪失とはそれの喪失であり、銀行に融資残高を一括で返すよう求められる状態になることです。

 

期限の利益の喪失は主に以下の場合に発生します。

返済の延滞が3~6か月続いた場合

延滞を1回でもしたら、ただちに期限の利益を喪失し、融資残高を一括で返済しなければなりません。

実際は、返済の延滞が3~6か月続いた場合に喪失するのが一般的です。

企業が取るべき行動

期限の利益を喪失する会社の場合、一括返済できるだけの資金がないことがほとんどだと思われます。

そうなると銀行は融資回収のため、担保不動産の競売や連帯保証人への取り立てなどを行ってきます。

競売や連帯保証人への取り立てを防ぐため、延滞状態を放置せず、銀行に返済猶予(リスケジュール)の交渉をしましょう。

預金や不動産を差し押さえられた場合

税金を滞納していた場合は税務署から、社会保険料を滞納していた場合は年金機構から
差し押さえをされることがあります。

税務署から預金や不動産等を差し押さえされると、期限の利益を喪失し、銀行から融資残高の一括返済を要求されてもおかしくありません。

企業が取るべき行動

実務では、差し押さえがあっても銀行が一括返済の要求をしてくることは少なく、差し押さえしてきた相手に対して差し押さえを解除してもらう交渉をするようにと言われるケースが多いです。

 

ただし、差し押さえは今後の融資審査に大きな影響が出てしまいます。

 

差し押さえの対象となった税金等の支払いを行った上で、差し押さえを解除してもらい、差し押さえされた経緯の説明と今後の経営改善策を銀行にしっかり説明するようにしましょう。

預金ロック

第7条(乙による相殺、払戻充当)

① 期限の到来、期限の利益の喪失、買戻債務の発生、求償債務の発生、その他の          事由によって甲が、乙に対する債務を履行しなければならない場合には、乙      は、その債務と甲の預金、定期積金、その他乙に対する債権とを、その債権の      期限のいかんにかかわらず、いつでも相殺することができるものとします。
 

以下の場合、銀行が融資している企業や連帯保証人の自行の口座をロック(預金口座から出金できないように)することがあります。

 

・返済を延滞した場合

・財務所から差し押さえされた場合

・その他銀行が必要と考えた場合

 

ここで言う相殺とは、融資と預金を相殺することを言います。例えばある銀行で融資残高3,000万円あり、一方で同じ銀行に預金残高が1,000万円あれば、その預金1,000万円を全て融資の返済に充てられるということです。そのための準備として行われるのが、預金ロックとなります。

なお、その他の事由は第5条(期限の利益の喪失)②にある債権保全を必要とする相当の事由が生じたと客観的に認められるときも含まれます。

 

つまり、返済を遅れずにしていても、業績悪化などにより銀行が融資の回収を懸念した場合にも預金ロックされることがあります。

企業が取るべき行動

まずは、融資取引のある銀行には当座預金以外の預金を置いておかない、特に定期預金は置かない方が良いでしょう。

 

銀行は、企業が融資の返済ができなくなったときの保全として定期預金を確保しておきたいと考える銀行が多く、すぐに解約させてもらえないケースが珍しくありません。

 

解約を申し出ると、相手が窓口の銀行員から上司に変わり、解約したい理由をあれこれ尋ねられ、引き止められることがよく行われます。

決算書の要求

第14条(報告、調査等)

甲は、貸借対照表、損益計算書等の、甲の財務状況を示す書類の写しを、定期的に              乙に提出するものとします。

②甲は、乙による甲の財産、経営、業況等に関する調査に必要な範囲において、乙か            ら請求があった場合には、書類を提出し、もしくは報告をなし、または便益を提供     するものとします。

融資を受けた企業は、決算申告を終え新しい決算書ができるごとに、銀行から決算書の提出を要求されます。

 

もし決算書の提出を拒んだ場合、第5条(期限の利益の喪失)②の3乙との取引約定に違反したときが適用されます。 

 

つまり、決算書を銀行に提出しないと、銀行は期限の利益を喪失させて融資残高の一括返済を求めてくることもあり得るということです。

企業が取るべき行動

企業としては、銀行からの要求に対して誠実に対応すべきです。

 

新規の融資を申し込んでいないのに、なぜ新しい決算書を提出する必要があるのかと思われるかも知れません。

 

銀行は完済してもらって初めて融資の利益が確定するです。

 

つまり、貸したお金は返していただくことが大原則なのです。

 

そのため銀行は、企業が最後まで返済できそうかどうか常に確認しておく必要があるため、銀行は毎期、決算書の提出を企業に求めるのです。

まとめ

これまで紹介しました

・期限の利益の喪失による一括返済の要求

・金利の引き上げ

・預金ロック

・決算書の要求

は、いずれも銀行が銀行取引約定書に記載されている条項に基づいて行ってくるものです。

 

いきなり銀行にそのような行動を取られて慌てないようにするためにも、銀行取引約定書の内容はしっかり読み込み、分からないところは銀行に聞いて解決しておいてください。

 

もし、銀行取引約定書にかかわる問題が起こったときは、第三者(弁護士、コンサルタントなど)に相談するとよいでしょう。

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