運営会社:有限会社 山本保険事務所
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公開日:2024.04.12
前号(経営者の役に立つ原価管理編)では、
●中小企業の99%で行われている原価計算(実際原価+全部原価)の特徴
●6種類ある原価計算の内容
●全部原価計算は、日常の仕事(経営判断)には役立たない
全部原価計算は、年に1回か2回かの必要(決算報告)のために用意された
「よそ行きの晴れ着」である
●日常の仕事では普段着として、標準原価計算+直接原価計算が必要
とお伝えしました。
今号では、損益改善につながる直接原価計算についてお伝えします。
経営判断に役立つ原価計算は、直接原価計算です。
例を挙げて、説明します。
ある自社製品を生産・販売している会社がありました。
●主力製品はA・Bの2種類(他に若干の製品を生産しているが、金額的にはわずか)
●A・B両製品は類似しており、材料費が異なるだけで、生産工程はほぼ同じ
経営者は、「業績を上げるためには、収益性の低い製品を整理し、利益の大きい製品に
注力し、積極的な生産・販売しなければならない」として、製品整理を行うことにしました。
そのため、収益性の低い製品の確認のため、経理課長から損益計算書(表1)が提出されました。
取締役会にて、注力すべき製品はAに決まりました。
製品Aの方が利益が大きく、設備・人員も現状のまま月産20台は可能とのことでした。
すぐに、新・生産販売計画(表2)が立てられ、満場一致で承認されました。
周到な計画により、切り替えも順調に進み、
販売も予定通りでした。
「これで我が社の業績は一段と向上した。
あとは経理課長の報告で確認すれば良い」。と
全社期待のうちに、損益計算書ができあがりました。
しかし、損益計算書を見た取締役一同は、
「アッ」と息をのんだのです。
それは(表3)の通り、利益増加どころか、大幅な利益減だったのです。
よく見ると、単位当り総原価が7.5円上がっています。(7.5円=98.5円-91円)
内訳は、製造原価が5円上がり、一般管理費・販売費が2.5円上がっています。
早速、全社をあげて原因究明に努めたものの、
どこにも原価の高くなった原因を発見できませんでした。
材料単価や外注費は変わらず、不良品の増加もなく、
また作業時間が増えたわけでもなく、
一般管理費・販売費の増減もありませんでした。
それにも関わらず、原価は上がっているのです。
その時、ある取締役が次のような質問をしました。
「儲かるはずのA製品だけをつくって、儲けが減ったのなら、
儲からないはずのB製品だけを20台つくったら、一体どうなるのか?
参考までに計算してほしい」というのです。
この発言に賛成の声が上がり、経理課長は大至急計算を行い、(表4)を提出しました。
何ということでしょうか!
儲からないはずのB製品だけつくった場合には、
利益が大幅に増加し、しかも原価が下がっているのです。
まるで原価計算の魔術にかかってしまったかのようです。
もちろん、計算方法が間違っていたのでもなく、計算誤りでもありません。
忠実に“会計の原則”に従って、誤りなく計算されたものです。
では、このナゾをどう解いたらよいのでしょうか?
(表1),(表3),(表4)を比較してみましょう。
変わらないもの⇒売価、製造比例費、製造固定費の総額、一般管理費・販売費の総額
変わったもの ⇒“1台当り”の製造固定費と一般管理費・販売費
変わった2つの費用は、
経営の総額として発生するもので、“1台当り”いくらで発生するものではありません。
しかし、全部原価計算では“1台当り”に割り掛けて計算します。
ナゾの正体は、“間接費の割り掛け”という全部原価計算の原則そのものにあったのです。
では、何をもとに経営判断すべきだったのでしょうか?
答えは直接原価計算です。
続きは次号で。